セーメーバン――2007.12.8(土)


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◆糸の会山行[540]――12a
◆セーメーバン
せーめーばん……1,006m
おおぬたやま(大岱山)……約1,190m
登り7p→稜線16p→下り16p……合計39ポイント
日の出0642、日の入り1632……12.8甲府で
◆【JR吾妻線・中之条駅から】→JR中央本線・大月駅に訂正……2007.12.8(土)実施


●「名前がヘン」というだけのことなのに参加者が多いのはどうしてだろう。
●山がヘンかどうか、私は知らない。毎月第二土曜日の「a」は、このところ「初めて」シリーズになっている。初体験というところに価値があるから、私もあまり調べない。ダメなら引き返すという選択肢を捨てないようにしている。
●もちろん、道迷いの危険もあるだろう。それも含めて、出かけてみる。
●別のいい方をすれば「偵察モード」だ。偵察して本番という慎重さを私はとらない。偵察が完璧ならそのあとの本番は出がらしだし、不完全な偵察のあとの本番なら、そこにはやはり偵察という要素が残る。
●なによりも、偵察の方がおもしろい。たぶん視野を広くとれるからだろう。参加したみなさんも「偵察の目」でリーダーの判断を監視? している。

●セーメーバンという名前がヘンな分だけ、ヘンな山であってほしいという全員の期待をのせて歩き始めた。
●大月からのタクシーは日影バス停で降りた。1,450円。
●名前に似合わない明るい集落で、北に集落内の小山があって、鎮守の森という雰囲気。地図によればその先から登山道は始まるらしい。
●小さな川沿いに左(西)に上っていく車道があったので入っていくと、庭で洗車をしている人が道が違うという。もっと先から林道を入りなさいというのだが、どうもそうではないという気がする。
●要するに、目の前の尾根に取りつけばいいのだ。
●その人は親切に道まで出てくれて、おおいに悩んでくれる。
●結論からいえば、もう1本先の、ほとんど私道にしか見えない道を上がればよかったのだ。私たちは戻らずに、1軒の家の脇をすり抜けるようにしてその道に出た。
●道は、一番上の民家のところで左に砂防ダムに向かう狭い林道、右に細い踏み跡道へと分かれる。悩んでいたら、下から別の住人が右へ行けという指示。
●このルートは道はそれなりについているが、道標や赤布など指示はいっさいないので、薮こぎの覚悟がないと不安が増大してくると思う。

●1055日影バス停(標高約400m)を出発……1120林道を横断(標高約500m)……1200-10高圧線鉄塔(標高約750m)……1220高の丸(標高735m)……1230桜沢峠(標高約700m)……1245-55高圧線鉄塔(標高約800m)→1330-45-50セーメーバン山頂……1430-40大岱山(標高1,180m)……金山峠手前の分岐(標高約1,160m)から道標に従って金山鉱泉方面へのトラバース道へ……しばらくするとおよそ南に向かうやせ尾根の下りになり、1530-40尾根から金山鉱泉への下り標識(標高約900m)……1555金山鉱泉(標高約700m)
●タクシーは大月駅→日影バス停1,450円、金山鉱泉→大月駅3,050円。

●1120に林道を横断して、登山道とは見えにくい踏み跡をたどる。地形図どおりに道はのびていたが、踏み跡の気配をたどるだけ。あたりにはまだ若木という状態のサクラの木がかなりの本数植えてあるので、サクラの尾根道にしようとした気配濃厚だ。
●ただし道は枯葉に埋まってわかりにくい部分があるので、基本的には「直登」でいく。道標、赤布、赤ペンキなどいっさいなし。
●ゆるやかな尾根から急登にかかるところでじつは道筋を見失ったが、前方に高圧電線の鉄塔が見えていたので、そこに行けば稜線の登山道があるはずと直登した。
●1200に、登り切ったところにかなりしっかりした登山道が現れた。私はこれを1245に到着することになる標高約800mの鉄塔かと考えたが、違っていた。
●その先に高の丸(地形図では標高734.8mの無名峰)、桜沢峠(金山集落から登ったところ)とたどる道があって、そこには赤テープもあれば大月市の立派な道標もあった。
●結論から言うと、金山集落(金山民宿村)から登って金山鉱泉に下るか、その逆に関してはかなりしっかりと管理されている。
●わたしたちはその管理領域を気分良く歩いた。雑木林に囲まれたこじんまりとした尾根道は、四季を通じて心楽しい道といえるだろう。山頂を過ぎるとみごとな松林もあらわれた。

●さてセーメーバンだが、山頂はゆるやかに起伏する突起部のひとつにすぎない。セーメーバンとあるけれど「セイメイバン」という名札もかかっていた。表記上の小さな違いのようだが、私たちはこだわった。さらに先の、ルート上の最高峰・大岱山のところには、下の「山」が「土」になっている名札もある。強引に山名を確定しようとする人がいるのだ。
●どちらも国土地理院が無名峰として扱っているところなので結論は出ない。あるいはもっと違う名前だって、あるかもしれない。中央線沿線の山に詳しい山村正光さんの著書にはセーメーバンに「大ガ峰」という別名があるという。
●じつはこのセーメーバンは金山鉱泉から見上げると尾根ひとつ向こうに位置する。女将さんに聞いてみると、特別に名前はなかったという。「桜沢の尾根」と呼んでいたら、つい最近になってセーメーバンと聞いたという。
●山の名前に谷や沢の名が引用されて「○○沢の頭」というような意味のものが多いのはご存じのとおりだ。……ということは、こちらと向こう側とでは沢はあきらかに違うから、山の名前も違うことが多いはず。国土地理院の名前の付け方に間違いがあるというのは当然のことで、地名調書というのをとった場所と、情報提供者によって、山の名前の運命は決定したともいえる。
●それに加えて、だれかが勝手に命名した名前が、なにかの弾みで国土地理院の地名調書に載って、正式名称として確定したというものも、結構多い。セーメーバンの奥に雁ヶ腹摺山(がんがはらすりやま)があるけれど、じつは周囲にあとふたつある。笹子の、と奥牛の、という前振りで区別しているけれど、そのあいまいさは、国土地理院の地名調書上のブレの大きさをあらわしている。
●道草になってしまうけれど、せっかく調べてしまったので書いておきたい。
●いま私の手元にある2万5000分1地形図(以下同じ)の地形図(甲府2号-2 ななほ)には「雁ガ腹摺山」とある。……え? と驚いて調べてみると、一番ふるい地図には「雁腹摺山」と出ている。私が使ったのは昭和62年2月28日発行のもので、「昭和60年修正測量」とあり「現地調査は昭和60年10月実施」とある。
●そのあとの地図は平成10年7月1日発行というものが3枚あって、「平成9年修正測量」、「現地調査は平成9年9月実施」となっている。そして「雁ガ腹摺山」となっている。山と溪谷社が日本の山名表記を破壊してきた一例がここにも出てきた。
●それについてはすでに書いたことがある(毎日新聞社「日本の大自然16・秩父多摩国立公園」1994年)。山と溪谷社は国土地理院の地名表記に従いながら、例外として「ヶ」は「ガ」に、「の」は「ノ」にというヤマケイ表記を押し通してきた。戦後の国語改革に連動した表記改革の遺物が一出版社に取り残されただけのことだが、「ヤマケイ」は日本の山文化の軸を動かすほどの力を持って、「槍ガ岳」を多くの登山者に刷り込んでしまった。
●地名調書は国土地理院だけでなく、民間の地図会社でも、地名にかかわる最後の決定を求めるために取る手段で、「間違いだ」と指摘する越えに対する防御的な意味も持っている。
●いまはだれに聞くかというと、当然、地域を管轄する役場だ。そこで誰に聞くかというと、たぶんいまは、山の名前に関しては山に詳しい人物に振られるだろう。
●昔は山で仕事をしている人たちだったから、沢の名前の山が多かったのだが、いま登山好きな役場職員がその役に当たるケースもあるだろう。
●その場合「ヤマケイ」育ちのその人には「槍ヶ岳」はいかにも古くさい山名で「槍ガ岳」でなければ落ち着かない。同様に「雁腹摺山」は古くさいから「ヤマケイ表記」の「雁ガ腹摺山」と答えるだろう。
●山と溪谷社はもちろん国土地理院表記の「雁腹摺山」を認めた上で(ヤマケイによくある勇み足なのだが、)読みに準じた「雁ガ腹摺山」と表記してきた。それが結局、国土地理院の正式表記を「雁ガ腹摺山」に変えてしまったのだ。
●こういう暴力的な破壊行為は無数に出てくる。「山と溪谷」と「岳人」を比べてみると表記がどれほど違うかわかるはずだ。「岳人」は中日新聞社が最初の発行元で東京新聞出版局の発行だから表記は新聞表記に準じている。ヤマケイ表記だけが特異なのだ。
●私が山名の読みの絶対のアンチョコにしている武内正さんの『日本山名総覧』には「雁腹摺山(雁ヶ腹摺山)ガンガハラスリヤマ」と出ている。改訂版が出るとしたら「雁ガ腹摺山」に訂正しなければいけない。
●ちなみに、笹子雁腹摺山は無名峰だが、武内さんの「牛奥ノ雁腹摺山 ウシオクノガンガハラスリヤマ」も地形図では昭和60年の現地調査によるものは「牛奥ノ雁腹摺山」だが、平成9年の現地調査で「牛奥ノ雁ガ腹摺山」と変わっている。
●ところがいま、web上に掲示されている地形図を見ると、「牛奥ノ雁ケ腹摺山」となっている。
●国土地理院には、じつは地名の決定権がない。ないからいわれたとおりにせざるを得ないという言い訳はあるだろうが、原因のはっきりしているこんな暴力に振り回されているのはど〜して?
●じつは昭和56年に国土地理院の地図管理部という名前で『標準地名集』というのが出ている。国土地理院と海上保安庁水路部による「地名等の統一に関する連絡協議会」の成果のひとつということだが、表記上の「ヶ」と「ケ」の区別が意識されていない。地形図上では明らかに「槍ヶ岳」となっているものが「槍ケ岳」だ。「槍ケ岳」をヤリガタケと読ますのにはもちろん大きな無理がある。ヤマケイの「槍ガ岳」に足をすくわれても当然だ。
●その傾向は平成3年に国土地理院から出た『日本の山岳標高一覧――1003山』も同様で、地図表記の「ヶ」は全部「ケ」に統一されている。
●行政地名はたとえば住所表記など、各行政機関でかなり厳密に管理されている。ところが自然地名の多くは、国土地理院がそのスタンダードを確立すべき立場にいる。異論があるなしはともかく、動かしようのない「固有名詞」を確定してくれなくてはならない。その結果がワープロ辞書にきちんと載せられることによって、国民共通の財産となる。
●山の名前に関するさまざまなドラマには国土地理院の脇の甘さに起因するものも少なくない。

●名前の不思議にこだわりながら大岱山からの下りにかかると、金山峠に届く前に、しっかりとした道標のある分岐がでてきた。地形図にない道で、いま来た道を引き返すように、大岱山をトラバースしていく。
●金山鉱泉に出るというのでたどってみると、しばらくして小さな尾根を下り始めた。
●セーメーバン→大岱山の稜線と東沢の谷をはさんで向かい合うやせ尾根をかなり大胆な下り勾配で下っていくと、標高約900mのところで稜線から「金山鉱泉」への下りに切り替わる。ひどい急斜面のはずなので、もっとひどい道になるかと思って1本入れたのに、道は大きすぎるほどのジグザグを切りながら、快適に下って標高約700mのところで金山鉱泉に出た。

●携帯電話の電波が通じないのでタクシーを呼びたいと思って山口館に立ち寄ると、風呂場のボイラーがうなっていた。風呂に入りなさいと女将に強く押されて承諾。2つの風呂に女性陣が先に、ということで全員入浴となった。
●この風呂はたぶん、以前泊まったときから改築したという感じでこぎれいではあったのだが、冷たい源泉がチョロチョロと流れ続けていて、湯温はボイラーで上げるという方式。源泉掛け流しの鉱泉版としてはありうるかたちだと思った。加熱した湯を流し込むのとちょっとちがうかもしれない。
●ところが、その加熱がまだ不十分だったらしく、女性陣は出てきてからストーブにはりついていた。男性が入ったときには、まあ、ぬる湯かなと思う程度には暖まっていたが、シャワーにまで余力は回らず、極楽、極楽というわけにはいかなかった。
●しかしみなさん不平たらたらという雰囲気にならなかったのは、女将の人柄でしょうかね。きもちよく送られてタクシーに分乗した。
●みなさんへの事前の説明で、金山鉱泉は風呂が小さいので13人もいると入りたくない、橋倉鉱泉も十分大きいとはいえないし、真木温泉は最近、日帰り入浴に冷たくて、土曜日だからだめだろうと話してあった。すなわちタクシーで大月へ出て、いつもの銭湯・よしの湯に入りたい人は入って、入りたくない人はいつもの濱野屋で今日あたりはほうとう鍋など……と予告してあった。
●ところが女性の中に銭湯嫌いがいて、たぶんその影響で女性は入らないという傾向が広がってきた。
●よしの湯はお湯がやわらかくなるからという理由で廃材で沸かしている。いつまで続くか分からないが、それに協力する人がいて釜場の周辺には真新しい建築材も積まれている。
●なんの変哲もない銭湯だけれど、夕方のすいた時間帯だから薬湯にのんびりと入ることも可能な状態だ。せめて、初めてのひとは、ぜひ体験して欲しいと考えている。
●しかし「よしの湯なら入らない」という流れがまた出てきたので、金山鉱泉で、という気持ちになったのだけれど、ぬるいお湯も山の中でなら旅情のうちだ。
●通常、千葉のみなさんは1904大月発の特急あずさ32号まで時間待ちをする。混んだ新宿を通過するのがいやだからというだが、最近、早ければ早く帰るという流れが出て、今回もビールを飲みたい男性以外はみんないなくなってしまいそうに見えたのだが、その都合のいい電車が12月にはないということになって、2時間以上の時間つぶしをしようという流れになった。
●……で、ドカドカと濱野屋にいくと「×」。今日は予約で埋まっているという。未知のイタリアレストラン(ピザ屋かも)を候補に上げたが、情報を手元にもっていなかったのでちょっと右往左往したのちに、駅前のイタリアレストランAdadissimo アダージッシモ(0554-23-2323)に決めた。大人数で入るたびに大混乱という経験が数回あるので喫茶以上には利用しないできた店だ。
●最初ちょっとした混乱があったけれど、こちらは時間が存分にあったので全然焦らない。バラバラに注文して、のんびりと待って、時間をゆっくりと消費していった。女性陣が「生牡蠣は大月に限る」という発見もした。
●かくして、ほぼなじみの土地にもかかわらず、いつもと違う1日が過ぎていった。セーメーバンのおかげかも。


◆集合
●12.8(土)8:30……JR東京駅_中央線快速ホーム_前方2両目乗車口
*快速大月行き・前方2両目に順次集結ということでいきましょう

◆ポイント
●セーメーバンとかセイメイバン、晴明盤などという漢字の名前もあるそうですが、どれも国土地理院には登録されていません。有名な陰陽師・安倍晴明がここで憤死したといういかにもくさい由来です。「大ヶ峰」という名もあるそうです。
●あとは行ってのお楽しみというところですが、この卓抜したネーミングによって、登る人はけっこう多いらしく、高圧電線にそっているというわかりやすさも手伝って、道迷いの心配もなさそうです。

◆往路
0836東京始発(JR中央線線_快速_大月行き)……1024大月
0836東京→0838神田→0840御茶ノ水→0850新宿→0903吉祥寺→0923西国分寺→0929立川→0939八王子→0946高尾→1024大月
*タクシーで登山口へ(1台約2,000円)

◆現地行動
1100ごろ_日影集落の登山口を出発……登り7ポイントを1時間として
1200ごろ_桜沢峠……稜線10ポイントを1時間として
1300ごろ_セーメーバン山頂……稜線6ポイントを1時間として
1400ごろ_大岱山……下り16ポイントを2時間として……1600ごろ_金山鉱泉
*タクシーで大月へ(1台約3,000円)

◆往路参考
●武蔵野線
0746海浜幕張→0801西船橋→0817新松戸→0832南越谷→0843南浦和→0900東所沢→0912西国分寺
●JR南武線
0821川崎→0833武蔵小杉→0841武蔵溝ノ口→0849登戸→0915立川
●JR横浜線
0827東神奈川→0856町田→0921八王子

◆費用の目安
JR_ホリデーパス(大月まで有効)……2,300円
taxi_大月駅→登山口……1台約2,000円
taxi_金山鉱泉→大月駅……1台約3,000円

◆電話
●タクシー(大月駅)
富士タクシー……0554-22-2516
富士急山梨ハイヤー大月営業所……0554-22-2455

◆持ち物
★食べ物・飲み物――水筒+行動食+おやつ
冬季日帰り標準セット
●足まわり……運動靴(軽登山靴など)
●行動着……ドライタイプの登山用Tシャツ+長ズボン+長袖シャツ
●保温着……手袋+耳覆いのある帽子+フリースシャツ+予備靴下+貼るカイロ
●雨具……折りたたみ傘+ゴアテックスレインスーツ
●小物……地図+健康保険証コピー+時計+ポケットライト+ダブルストック


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